オーデマピゲAUDEMARSPIGUET

オーデマ ピゲの歴史は、伝統的なスイス時計技術への深い敬意に根差しています。しかし同時に、その伝統を打ち破る勇気と創造力によっても語られます。その象徴が、1972年に発表された「ロイヤル オーク」です。

ジェラルド・ジェンタによってデザインされたこのモデルは、当時の高級時計の常識を覆しました。ステンレススチール製のスポーツウォッチでありながら、複雑な仕上げや高級感を備え、八角形ベゼルと一体型ブレスレットという独創的な構造は、瞬く間に時計界の常識を再定義しました。

このデザインは、単なる「新しさ」ではなく、オーデマ ピゲが長年培ってきた伝統技術を土台として生まれたものであり、熟練した職人たちの手によって完成される芸術的プロダクトです。

ロイヤル オークは、まさに「伝統と革新の融合」を体現するアイコンであり、今なお多くの時計ブランドに影響を与え続けています。

オーデマ ピゲの魅力を「オーデマ ピゲとは」「オーデマ ピゲの歩み」「オーデマ ピゲの人気モデル解説」「オーデマ ピゲの時計年表」「ブランド哲学」の5つの観点から深掘りし、中古市場における価値や選び方にも触れながらご紹介いたします。

1875年、スイス・ル・ブラッシュにて、ジュール＝ルイ・オーデマ（Jules-Louis Audemars）とエドワール＝オーギュスト・ピゲ（Edward-Auguste Piguet）の二人の若き時計師によって、オーデマ ピゲは誕生しました。創業当初から、複雑機構を中心とした高精度な時計製造を手がけ、技術の粋を極める独立系ブランドとして名声を築いていきます。

1882年には公式に「Audemars Piguet & Cie」として法人化され、ミニッツリピーターやパーペチュアルカレンダーといった複雑機構において高い評価を獲得。1892年には、腕時計として「世界初」となるミニッツリピーター搭載モデルを発表するという偉業も達成しました。

家族経営を維持しながら、20世紀初頭にはヨーロッパ王室やハリウッドのセレブリティに愛されるラグジュアリーブランドとして成長。スイス時計業界がクォーツショックに揺れる1970年代においても、革新の旗を掲げ続けたのです。

1972年には、時計史に残る革命的なモデル「ロイヤル オーク（Royal Oak）」を発表。ステンレススチール製のスポーツラグジュアリーウォッチという全く新しいカテゴリーを開拓し、ラグジュアリーウォッチの概念そのものを変えました。この革新はオーデマ ピゲを一躍世界的なブランドへと押し上げ、同社の代名詞となります。

現在に至るまで、オーデマ ピゲは一貫して家族経営を続ける独立系マニュファクチュールとして、伝統技術と前衛的な挑戦を両立させる姿勢を貫いています。

オーデマ ピゲのコレクションには、時計史に名を刻む革新的なモデルが数多く存在します。中でも代表的なラインナップを以下にご紹介します。

1. ロイヤル オーク（Royal Oak）

1972年、ジェラルド・ジェンタによるデザインで発売されたロイヤル オークは、時計界のルールを覆す存在となりました。潜水服のヘルメットに着想を得た八角形ベゼル、ビス留めデザイン、一体型ブレスレット、そしてステンレス素材という構成は、それまで「高級時計＝貴金属製」という常識を打ち破りました。
中でも「ジャンボ」の愛称で親しまれるRef.5402STや、現行のRef.16202STは、クラシックな魅力とモダンな機構を併せ持ち、高い人気を誇っています。「グランド・タペストリー」文字盤は、現在では主にスタンピング（型押し）によって製造されていますが、以前は伝統的なギヨシェ彫機を用い、一つ一つ手作業で彫り込まれていました。タペストリーの模様には「グランド・タペストリー」「プチタペストリー」「目がタペストリー」などがあり、これらは今やブランドの象徴的意匠です。

2. ロイヤル オーク オフショア（Royal Oak Offshore）

1993年に登場したロイヤル オーク オフショアは、ロイヤル オークの進化系として、よりアグレッシブで大胆なデザインが特徴。44mm以上の大型ケース、ラバーストラップ、そして存在感のあるクロノグラフ機能を搭載し、スポーティかつエネルギッシュな印象を放ちます。
「ビースト（野獣）」の異名を持つこのシリーズは、アスリートやセレブリティの間でも人気が高く、コレクターズアイテムとしても注目されています。

3. コード 11.59（Code 11.59）

2019年に発表されたコード 11.59は、オーデマ ピゲの新たな時代を切り開くコレクションです。クラシックな丸形ケースに複雑な幾何構造を取り入れたケース構造と、3D構造のラッカー文字盤やサファイアガラスの曲面など、細部に至るまで精緻なこだわりが詰まっています。
発表当初は賛否両論を巻き起こしましたが、現在ではムーブメントの進化やダイアルデザインの改良を重ね、次世代のフラッグシップモデルとして確かな地位を築きつつあります。

4. ミニッツリピーター / トゥールビヨン / グランドコンプリケーション

オーデマ ピゲの真骨頂とも言えるのが、複雑機構を搭載した「グランドコンプリケーション」シリーズです。ミニッツリピーター、パーペチュアルカレンダー、トゥールビヨンなどを組み合わせた芸術的な作品群は、少量生産ながらも時計製造技術の粋を極めた逸品です。
超複雑時計「ユニバーサル・タイム」、「スーパーソヌリ」など、数々のマスターピースは、オーデマ ピゲが単なるブランドではなく、クラフツマンシップの体現者であることを示しています。

5. 希少性を追求した限定モデルと先進素材

オーデマ ピゲは、主要コレクションの他に、各国限定モデルや著名人とのコラボレーションモデル、アニバーサリーモデルなど、非常に多くの限定モデルを展開しています。これら限定モデルは、一般的なコレクションでは見られない独自の素材やデザインを取り入れている点が特徴です。たとえば、カーボンやセラミックといった先進素材を駆使したコンセプトウォッチなども発表され、その高い技術力と挑戦的な姿勢を示しています。

特にロイヤル オーク オフショアシリーズでは、アスリートやアーティストとのコラボレーションを通じて、独創的な限定モデルが多数誕生しており、ルブロン・ジェームズ限定モデルのように瞬く間に完売するほどの人気を博します。これらのモデルは、新品では手に入らない希少価値があるため、中古市場でも高いプレミア価格で取引されており、投資対象としても注目を集めています。

1875年 ジュール＝ルイ・オーデマとエドワール＝オーギュスト・ピゲがル・ブラッシュで創業。
1882年 「Audemars Piguet & Cie」として法人化。
1892年 腕時計として「世界初」のミニッツリピーターを製作。
1921年 世界初のジャンピングアワー表示付き腕時計を発表。
1925年 世界最薄の懐中時計（1.32mm厚）を開発。
1934年 時計製造におけるスケルトン化技術を導入。
1946年 超薄型手巻きムーブメント Cal.2003（厚さ1.64mm）を発表。
1955年 世界初の連続生産型パーペチュアルカレンダー搭載手巻き腕時計（Cal.5516）を発表。
1967年 世界最薄の自動巻ムーブメント Cal.2120（2.45mm厚）をジャガー・ルクルトと共同開発。
1972年 ロイヤル オーク Ref.5402ST を発表。Cal.2121 搭載、ジェラルド・ジェンタによるデザイン。
1978年 パーペチュアルカレンダー搭載自動巻ムーブメント Cal.2120/2800 を発表。
1984年 Cal.2120/2800 を搭載した世界最薄の自動巻パーペチュアルカレンダー腕時計 Ref.5554（後に Ref.25657）を発表。
1986年 世界初の自動巻トゥールビヨン腕時計 Ref.25643 を発表。Cal.2870 搭載、厚さわずか 4.8mm。
1993年 ロイヤル オーク オフショア Ref.25721ST を発表。直径 42mm の大型クロノグラフ。
1996年 ジュール オーデマ コレクションを開始。クラシックなデザインと複雑機構を融合。
2000年 ミレネリー（Millenary） コレクションを本格展開開始。楕円ケースとオープンワークを特徴とする。
2006年 自社製自動巻クロノグラフ Cal.3126/3840 を開発。ロイヤル オーク オフショアに搭載。
2009年 自社製パーペチュアルカレンダー Cal.5134（ウルトラスリム）を開発。ロイヤル オークに搭載。
2010年ミレネリー・ミニッツリピーターを発表。音響性能に優れた構造を採用。
2012年 オーデマ ピゲ ミュージアムを拡張。ロイヤル オーク誕生 40 周年記念として Ref.15202ST を発表。Cal.2121 搭載。
2015年 ミレネリー・フィロソフィークなど女性向けハイコンプリケーションを強化。音響強化モデル「RD#1 Concept Supersonnerie」を発表。
2019年 新コレクション「CODE 11.59」を発表。Cal.4302、Cal.4401 など新ムーブメントを搭載。
2020年 フライングトゥールビヨン＋自動巻ムーブメント Cal.2950 を発表。CODE 11.59 に搭載。
2021年 ロイヤル オーク 「ジャンボ」 Ref.15202 の生産終了を発表。
2022年 ロイヤル オーク誕生 50 周年を記念し、Cal.7121 を搭載したRef.16202ST を発表。
2023年 リサイクル素材や独自合金を採用した新作を発表。持続可能性と技術革新に注力。
2024年 再設計されたロイヤル オーク オフショアとスケルトン・グランドコンプリケーションモデルを発表。

「To break the rules, you must first master them.（ルールを破るには、まずそのルールを極めなければならない）」

この言葉は、単なるキャッチコピーではありません。オーデマ ピゲの時計作りにおける精神的支柱であり、同社が長年にわたって貫いてきた哲学そのものです。

オーデマ ピゲは、スイス時計界の伝統的な価値観を深く理解し、その精髄を体現することで知られています。そのうえで、ロイヤル オークのような革新を生み出す「反逆の美学」を内包しています。この哲学は、単なるデザイン上の実験や機能的進化にとどまらず、「時計とは何か」という本質的な問いに対する挑戦でもあります。

たとえば、伝統的なラウンドケースが支配的だった1970年代において、八角形ベゼルを持つロイヤル オークを生み出すという決断は、単なる技術革新ではなく、時計界の価値観そのものへの挑戦でした。オーデマ ピゲは、ルールに従うことを恐れず、しかしそのルールに囚われすぎない。そうした思考が、ブランドの創造力の源泉となっているのです。

また、同社はスイスに根差した独立系マニュファクチュールとして、短期的な商業主義に流されず、長期的な視点で「芸術性」と「哲学」の融合を追求しています。職人技や伝統技術の継承もまた、「極めたルール」の一部であり、それを乗り越えてこそ新たな美が生まれるという信念が、あらゆるモデルに込められています。

このように、オーデマ ピゲの時計を手にするということは、単なる贅沢品を所有することではなく、「時間」に対する独自の思想に共鳴するという意味を持つのです。

中古市場でオーデマ ピゲを検討する際には、自分のライフスタイルや価値観に合ったモデルを選ぶことが重要です。今後も進化を続けるこのブランドの魅力を、ぜひご自身の腕元で体感してみてください。