カルティエCARTIER

カルティエは、1847年にフランス・パリで創業されて以来、「王の宝石商」と称されるほどの格式と伝統を誇るジュエラーとして、世界中の王侯貴族やセレブリティに愛されてきました。その芸術的センスと革新的なデザインは、時計分野においてもひときわ輝きを放っています。

カルティエの時計は単なる時間を知る道具ではなく、「装う喜び」をもたらす芸術品。美しさと機能性を両立させたデザインは、時代を超えてもなお色褪せることなく、男女を問わず幅広い層から支持されています。

カルティエの時計の歴史は、1904年に誕生した「サントス」にさかのぼります。これは、飛行家アルベルト・サントス＝デュモンのためにデザインされた、世界初のパイロット用実用腕時計とされており、懐中時計が主流だった時代に革命をもたらしました。

また、戦車のキャタピラから着想を得た「タンク」シリーズは、力強さとエレガンスを併せ持ち、今日に至るまで数多くのバリエーションが展開され、カルティエを象徴するコレクションとして確固たる地位を築いています。

1970年代には自由な発想から生まれた「パシャ」や、しなやかにフィットする「パンテール」など、ファッション性の高いモデルを数多く発表し、カルティエはウォッチメゾンとしての地位を確立していきました。

近年では、スイスのラ・ショー＝ド＝フォンに自社工房「カルティエ・マニュファクチュール」を構え、自社ムーブメントの開発・製造にまで踏み込むなど、本格的な時計メーカーとしての技術力も高く評価されています。

カルティエの時計には、それぞれ異なる世界観と美学が宿っています。代表的なシリーズを以下にご紹介します。

1. サントス ドゥ カルティエ（Santos de Cartier）

1904年、飛行家アルベルト・サントス＝デュモンのために製作された、世界初のパイロット用実用腕時計。スクエア型のケースと、工業デザインを思わせるビス装飾がその象徴です。現代のサントスは自動巻ムーブメントを搭載し、ストラップの付け替えが容易な「クイックスイッチ」や、時計のブレスレットのコマ調整が自分で簡単に行える「スマートリンク」機能を備えるなど、デザイン性と実用性を兼ね備えた進化系クラシックです。

2. タンク（Tank）

第一次世界大戦中の戦車（タンク）から着想を得て、1917年に誕生したカルティエの代表作。直線的なケースとラグが一体化したフォルムは、無駄のない洗練された美しさを表現しています。以降、「タンク アメリカン」「タンク フランセーズ」「タンク ルイ カルティエ」など、さまざまなバリエーションが登場し、時代を超えて愛され続ける名作として地位を確立。知性とエレガンスを象徴するモデルです。

3. パシャ ドゥ カルティエ（Pasha de Cartier）

1985年に誕生したパシャは、カルティエの中でも異彩を放つラウンドケースのスポーツウォッチ。ねじ込み式リューズカバーとチェーン付きキャップ、大胆なアラビア数字のインデックスが特徴的で、防水性と存在感を両立しています。2020年には現代的に再解釈された新コレクションが発表され、クイックスイッチ機構やインターチェンジャブルなストラップシステムが加わり、男女問わず支持を集めるモダンスポーツモデルとなっています。

4. パンテール ドゥ カルティエ（Panthere de Cartier）

1980年代に誕生し、再復活を遂げたパンテールは、ジュエリーと時計の融合を体現したモデル。柔らかく流れるようなリンク構造のブレスレットと、スクエアに近い小ぶりのケースが調和し、まるでジュエリーを纏うような装いを演出します。その繊細なデザインとエレガントな着け心地は、多くの女性を魅了し、ファッション性の高いラグジュアリーウォッチとして不動の人気を誇ります。

5. バロンブルー ドゥ カルティエ（Ballon Bleu de Cartier）

2007年に登場した比較的新しいモデルながら、すでにカルティエのアイコンとなっているバロンブルー。丸みを帯びたケースに、ブルーサファイアのカボションをあしらったリューズを守るようなアーチ状のプロテクターがデザインの鍵。ふっくらとしたフォルムと洗練された文字盤のコンビネーションが、クラシックでありながらどこか未来的。男性・女性ともに支持を集めるユニセックスな魅力を持ちます。

1847年：
「カルティエ」の始まりは、ルイ＝フランソワ・カルティエが、パリのモントルゲイユ通りに宝飾品工房を設立。創業当初はジュエリーや装飾芸術の分野で高い評価を得ており、やがてヨーロッパ各国の王室や貴族にも名を知られる存在へと成長していく。

1904年：
ブラジルの飛行家アルベルト・サントス＝デュモンの要望に応え、カルティエが彼のために特別な時計を製作。 これは、操縦中でも時間が確認しやすいように設計された腕時計「サントス」の原型であり、懐中時計が主流だった当時としては画期的な発想だった。世界で初めてパイロットのために設計された実用的な男性用腕時計として、時計史に名を刻む。

1911年：
「サントス」が正式に市販される。カルティエとして初の量産型メンズウォッチであり、一般市場においても革新的なスタイルとして支持を獲得。スクエアケースとビスモチーフが特徴で、以後のカルティエ・デザインの礎となる。

1917年：
第一次世界大戦中、戦車（タンク）のキャタピラにインスピレーションを得て「タンク」誕生。直線的で無駄のないデザインは、古典とモダンを融合させた象徴的なスタイルとして注目を集める。
その後「タンク ルイ」「タンク アメリカン」「タンク フランセーズ」など数多くの派生モデルを生み出し、カルティエの最もアイコニックなコレクションのひとつとなる。

1943年：
マラケシュのパシャ（高官）の依頼により、耐水性を持つ特注時計を製作。これがのちの「パシャ ドゥ カルティエ」のルーツとされる。アクティブなライフスタイルと気品を両立させたコンセプトは、1985年に現代風に再解釈され、モダンなスポーツウォッチとして再登場することになる。

1967年：
カルティエはこの年、インビジブル・セッティングやスケルトン構造など、ジュエリーと時計製造の垣根を越えた革新的な試みに挑戦。美術工芸品のような複雑な構造と宝飾技術の融合は、のちのハイウォッチメイキングの布石となる。

1983年：
ジュエリーのような華やかさを持ちつつ、時計としての機能も兼ね備えた「パンテール ドゥ カルティエ」登場。しなやかなブレスレット構造と一体型ケースの流れるようなフォルムが特徴で、特に女性を中心に絶大な人気を博す。カルティエの「ジュエリーウォッチ」というジャンルを確立した代表作のひとつ。

1985年：
「サントス ガルベ」発表。自動巻ムーブメントを搭載し、よりエルゴノミック（人間工学的）なカーブケースが採用されるなど、初代サントスの精神を現代的に進化させたモデルとして注目される。

1996年：
「タンク フランセーズ」登場。ブレスレットとケースが一体となった、より洗練された現代的なフォルムが評価される。スポーティーさとエレガンスを融合させたこのモデルは、ユニセックスでの支持も厚く、ビジネスシーンからフォーマルまで幅広く活躍。

2008年：
自社製キャリバー「9452 MC（フライング・トゥールビヨン）」を発表。ジュネーブ・シール（Poincon de Geneve）を取得することで、スイス高級時計産業の厳しい基準を満たした技術力を世界に示す。カルティエが本格的なマニュファクチュールブランドへ進化した証となる。

2009年：
「ロトンド ドゥ カルティエ」や「カルティエ アストロレギュレーター」など、複雑機構を搭載した芸術性の高いモデルを相次いで発表。デザイン性と技術力を両立するウォッチメゾンとしての存在感を強める。

2010年：
ラ・ショー＝ド＝フォンにマニュファクチュールを正式設立。ムーブメントの設計から製造、組立、装飾までを一貫して行う体制が整備され、カルティエの時計製造が新たな次元へと進化。

2015年：
「アストロトゥールビヨン」や「アース＆ムーン」など、革新的な複雑機構モデルを次々と発表。宇宙や天体の動きにインスパイアされたデザインと技術が融合したコンセプトウォッチは、芸術と工学の粋を極める存在として高く評価される。

2017年：
「サントス ドゥ カルティエ」がフルリニューアル。ブレスレット交換が簡単に行える「クイックスイッチ」機構、コマ調整が容易な「スマートリンク」機構を搭載し、使いやすさとファッション性を両立。名作が現代のユーザーに向けた仕様で生まれ変わる。

2020年～：
「サントス デュモン」「タンク アシメトリック」など、過去の名作を再構築した限定コレクションが登場。伝統的なデザインに現代のエッセンスを取り入れたスタイルは、ヴィンテージファンやコレクターからも高い支持を受ける。
その後も、「パンテール」「バロンブルー」「クラッシュ ドゥ カルティエ」「ベニュワール」などの名作が、現代の感性やライフスタイルに合わせてアップデートされ、カルティエの進化を象徴するコレクションとして再び注目を集めています。

カルティエの時計には、ジュエラーとして培ってきた審美眼とクラフツマンシップが息づいています。曲線と直線が織りなすフォルムや装着感、緻密に施されたディテールのすべてが、「時をまとうジュエリー」と呼ぶにふさわしい存在です。

「Technique must serve the design, not the opposite」（技術はデザインに奉仕すべきであり、逆ではない）という言葉は、カルティエのタイムピース創造責任者マリー＝ローズ・セレードが語ったもので、まさに「デザインがすべての核である」というブランド哲学を象徴しています。

またブランド創業当初から受け継がれる信条、「Never imitate, always innovate（模倣せず、常に革新せよ）」は、カルティエが歴史ある伝統に立ちながら、時代を先取りした創造性を追求し続けてきた証です。

技術だけでもなく、美しさだけでもない。芸術と実用性、伝統と革新を高次で融合させるその姿勢こそが、多くの人々がカルティエを選ぶ理由。カルティエの時計は、所有する人の価値観や人生観を映し出す「時の芸術品」なのです。

カルティエの時計は中古市場においても高い評価を受けています。中でも「タンク」「サントス」「パンテール」といった定番モデルは、時代や流行に左右されず安定した需要を誇り、多くのコレクターや愛好家から根強い支持を集めています。

近年では、限定カラーや独特のダイヤル素材を採用したモデル、自社製ムーブメントを搭載したハイエンドウォッチなども注目度が高く、状態の良い個体は市場に出るとすぐに売り切れることも珍しくありません。

華やかなジュエラーとしての顔と、時計メーカーとしての技術力を兼ね備えるカルティエの時計は、単なる所有物以上の価値を持ちます。それは、時間と共に歩み、人生のさまざまな瞬間を彩る「時の芸術品」として、次世代へと受け継がれていく、本物のラグジュアリーと言えるでしょう。