実用性と美の融合が、世界のバッグ史に「ファスナー」という革命をもたらしました。エルメス日常使いが革製品のメゾンとして新たな一歩を踏み出す中、バッグの歴史を根底から塗り替える傑作が誕生します。それが、今回の主役であるボリードです。その誕生のきっかけは、3代目エミール・エルメスが第一次世界大戦中にカナダへ赴いた際に出会った、ある画期的な機構にありました。エミールは、軍用車の幌(ほろ)を固定するために使用されていた「ファスナー」に着目したのです。当時のバッグといえば、金具や紐、あるいは高価な鍵を使って開閉するのが当たり前の時代でした。エミールはこのファスナーの持つ圧倒的な密閉性とスムーズな開閉機能に未来を見出し、フランス国内でファスナーの独占使用権を取得し、自社のバッグに応用することを決意しました。こうして1923年、高級ハンドバッグとして世界で初めてファスナーを採用したとされるバッグ「サック・プール・オート(Sac pour auto)」が発表されました。当時の道路事情はまだ未舗装の場所が多く、自動車の走行時には激しい揺れや埃がつきものでした。そんな過酷な自動車移動中であっても、中の荷物が外に飛び出さず、しっかりと守ることができるバッグとして開発されたのです。